そのラブレターのキーポイントは封筒に書かれた言葉だった

今も昔も、私は女性にモテるという感覚を持ったことがありません。
そんな見た目も中身もごく平凡な私ですが、これまでの人生の中でたった一度だけ、女性からラブレターをもらった経験があります。

当時の私は大学生でした。
そしてその日は20歳の誕生日です。
ですが特に何の予定もなく、レンタルした映画を一人さみしく自宅で見ていました。

そのとき玄関のベルが鳴り、ドアを開けるとそこには当時親しかった女友達が立っていました。
そしてその手には、しっかりと封筒が握られていたのです。
私は封筒に気を取られつつも、一緒に映画を見ようと彼女を部屋へ招き入れました。
私たちは本当に仲が良く、共に自宅で映画鑑賞をすることも多かったので、それは何も特別な出来事ではありません。

それから二人で映画を見たのですが、なぜか彼女は封筒を握ったままです。
私はいよいよ封筒の方に気を取られ始め、映画の内容が頭に入らなくなっていきました。
「その封筒は何?」と彼女に聞いたのは、とても自然な成り行きだった気がします。
しかし彼女は、「映画を見終わって帰るときに渡す」とだけ答え、また映画の世界に没頭してしまいました。

やがて映画もエンディングを迎え、私はいつも通り彼女とその内容についてあれこれ話すつもりでいました。
ですが、彼女はぶっきらぼうに封筒を突き出すと、そのまま素っ気無い感じで帰ってしまったのです。
私は半ば強引に渡された封筒を手に持ったまま、しばらく事態が把握できずにいました。

その封筒の表側には、「My favorite」と書かれています。
しかしたいへん恥ずかしい話なのですが、私は完全な英語オンチで、その文章の意味が全くわからなかったのです。
封筒の中には便箋が1枚だけ入っていて、内容はこれまで一緒に遊んだときの回想のようでした。
どういう意図で彼女がこれを自分に渡したのかが理解できず、私はずいぶん戸惑います。
いくら考えても意味がわからなかったので、私は仕方なくこれまでほとんど使ったことのない英語辞典を押入れから引っ張り出し、封筒に書かれた言葉の意味を調べることにしました。
そこで初めて、封筒に書かれていたfavoriteという単語が、「お気に入り」の意味だと知ったのです。

ですが、「お気に入り」という言葉は何とも微妙な表現です。
そもそも私と彼女はかなり仲が良いわけですし、さらにその日が私の誕生日ということもあって、もしかしたら何かの悪ふざけかもしれません。
結局彼女の意図を正確に把握できなかった私は、それ以上深く考えるのをやめてしまいました。

それから1週間後、彼女が食事に行こうと私を誘ってきました。
特に何の予定もなかったので、私はすぐにOKを出します。
そして食事をしているとき、彼女が例の封筒について切り出したのです。
「あれを見てどう思った?」というのが、彼女の私に対する問いでした。
しかしどう思ったと言われても、私はイマイチ内容を理解していません。

そんな私の困った顔を見て、彼女は呆れ顔になりました。
そして、こう言ったのです。
「何で封筒に本命って書いてるのに、意味がわかってないの?」

実はfavoriteという単語には、「本命」の意味もあることを私はそのとき初めて知りました。
私が使った英語辞典には「お気に入り」としか書かれていなかったので、そこで認識にズレができてしまったようです。
つまり、それは彼女から私に対するラブレターでした。

それならもっとわかりやすい中身にしてくれよ…というのが私の本音でしたが、それよりも何よりも、彼女が私に想いを伝えてくれたことが嬉しくて、私は自然と笑顔になっていました。
後にも先にも、私が女性からラブレターを受け取ったのは、このときの一度だけです。
しかしそのとき封筒に書かれていた「My favorite」という言葉は、今でも私の胸の中にしっかりと刻まれています。

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